【9冊目】ウィモン・サイニムヌアン『蛇』
■タイのプロレタリア文学という感じか。田舎の村に新任の住職がやってくることから始まる。住職は寺が荒れ放題なのを見て修繕費を集めるためにお祭を企画。その後もさまざまな形で熱心に集金を続け財を築いていく。村長も住職に協力。ゆくゆくは議員になることを狙っている。
■そんなところへ、刑務所に入っていた元ボクサー(ムエタイですね)が村に帰ってくる。彼はかつて、絡んできたチンピラを殺してしまったのだ。当時新婚だったのだが、妻は今では村長と再婚している。とはいえ、これは「彼は刑務所内で死んだ」と騙され、気が進まないながらも母親のゴリ押しもあって無理やり再婚させられたので、元夫のことを思う気持ちは今でもある。
ボクサーの母親はよく言えば信仰心が篤く、彼が身体を命がけで稼いだ金(コブラを捕まえて料理店に卸しているのだ)をどんどんお寺に寄付してしまい、いつまで経っても貧乏から抜け出せない。
■基本的にろくでなしの住職や村長に、無骨だが正直者の元ボクサーが翻弄され、どんどん悲惨なことになっていくという話である。タイでは周知のごとく仏教が生活に大変密着しており、仏教批判というのはかなりのタブーらしい。本作もけっこう話題を呼んだみたいだが、著者は「これは仏教を批判しているのではなく、信仰を食い物にしている輩を批判しているのだ」と言っているようだ。
■まあとにかく救いのない話でありました。タイの田舎の様子がわかってその点はなかなか興味深かった。あと、住職以外も出てくる坊主が全員ひどい。
■関係ないけど訳者あとがきを読んでたら仕事でお世話になっているタイ人翻訳者さんの名前が出てきて驚いた。やっぱすごいんだな、あの人。
蛇 (アジアの現代文学 11 タイ)
ウィモン・サイニムヌアン 桜田 育夫