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【15冊目】中山康樹『ジャズの歴史 100年を100枚で辿る』

2017年は「ジャズ百年」だそうである。もちろんそもそもジャズという音楽の発祥を遡っていくとどこまで行っても辿りきれない(そしてどこからどこまでがジャズなのかにも諸説が出てくる)わけで、この場合は初めてのジャズのレコードが出てから100年ということだ。
ジャズの歴史 100年を100枚で辿る (講談社+α新書)
中山 康樹
4062728737

で、この本は「100枚で辿る100年」ということだが2014年刊行。まあだいたい100年てことですね。特徴としては名盤ガイドではなくあくまで「100枚のアルバムを通してジャズの歴史を辿る」のを目的とした本であるということ。必ずしも「名盤」が時代の空気を反映しているわけではないということで、オルガン・ジャズやソウル・ジャズ、それにヴィンス・ガラルディジョージ・ベンソンなど、むしろ今や「正史」では無視されているがリアルタイムでは広く聞かれていたような盤を拾っているのが面白いところだ。
ジャズはまだたかだか100年だしロックはもっと短いわけだが、たとえば文学なんかだと「数百年後には20世紀の作家で残ってるのは漱石と春樹くらいだろう」みたいなことをよく言われる。でも、歴史を辿るということ、時代ごとの空気感を感じようと思うと、そういう「歴史に残るもの」ばかりではおそらく見えてこないものがある。四方田犬彦が近年、アジア映画の研究に際して大衆映画に注力しているのもそういうことなんだと思う。
あと、所謂「名盤」よりも「正史」で無視されてきた徒花っぽいものが、むしろ(ヒップホップとかレアグルーヴを通じて)今のリスナーには受け入れられやすくなった状況というのも踏まえられている。このへんしっかり捉えているのも流石というか、大したものだ。
なんとなく「売れたものに冷たい」ところがある(と、本書では再三言われている)ジャズ史の世界にあって、面白い切り口なんじゃなかろうか。もっとも2014年刊行ということでいわゆるJTNC以降のジャズというのは反映されていない。JTNC以降、ポップなものを拒絶しないジャズ批評というのが出てきているので、さらなる更新がされるのを期待したいところであります。

Jazz The New Chapter 4 (シンコー・ミュージックMOOK)
柳樂 光隆
4401643615

MILES : Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド (シンコー・ミュージックMOOK)
柳樂 光隆
4401643178