【10冊目】ウラジミール・ナボコフ『カメラ・オブスクーラ』
- むかし面白い個人サイトをやっていて、ぼくともちょっと交流があったけれども、しばらく音沙汰がなかった人(まあそんな人はけっこうたくさんいるのだが)が、先日亡くなったという話を話を聞いて大変驚いたのが昨年のこと。
- そんな彼は我が家で本のトレード会みたいなことをやった際に来てくれて、ナボコフ特集の「ユリイカ」をくれたりしたいのだった。ぼくが何をあげたのかは覚えていない。けど、うちの本棚を隅々まで見ては吉田健一の本なんかを手に取って「これもブックオフかよ!」って言ってたのは覚えている。
- なんてことをつらつら思い出しつつ、昨年末最後に呼んだのがこの本。ナボコフのロシア語時代の作品である。フランス語版からの訳なんかはあるそうなのだが、ロシア語オリジナルからの訳は今回が初。しかもナボコフが自分で訳したものとしては珍しく、ロシア語版と英語版の間にはけっこうな異同があるという。なので、「古典新訳」文庫ではあるが本邦初訳といっていいだろう。
- 妻も子もある裕福な美術評論家が若いあばずれ女の虜になって身を持ち崩す話。解説にもあるように、のちの『ロリータ』と共通する部分がある。『ロリータ』よりはシンプルで読みやすく、考えようによっては『ロリータ』の秀作と言えなくもないだろう。
- とはいえそこはナボコフなので、最後まで読んでから冒頭に戻って読み返すと「ここが伏線だったのか!」みたいな仕掛けはしっかり張り巡らされている。
- それと、これまた解説にもあるように本作には「見える/見えない」というモチーフがひとつあると思うのだが、けっこう頻繁に視点が移動するのもその点を踏まえると興味深い。
- そういえば『ロリータ』は少女の側が何を考えているのかは基本的にわからないようになっているのだけれど、こちらに出てくる悪女は視点人物のひとりなのでけっこう考えてることは丸わかりである。その軽薄さがまたナボコフらしい意地の悪さで笑ってしまう。
- ナボコフは他にも何冊か積ん読しているので、今年は全部読もうと思う。
- ちなみに光文社の古典新訳文庫はただいま電子書籍版が絶賛半額セール中ですよ。