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【23冊目】古谷田奈月『無限の玄/風下の朱』

『神前酔狂宴』もすばらしかった古谷田奈月の前作で、中編2本を収録。
「無限の玄」は三島賞受賞作になっているのだが、これがまた最高。
ブルーグラス楽団を生業とする一家の話で、玄というのは父親の名前。ほんとに玄が無限という話だからびっくりする。バンドを憎みながらも親からバンドを引き継ぎ、家族に楽器を覚えさせてのツアー生活を始めた玄が、ある日とつぜん自宅で死ぬ。残された家族にしてバンドメンバーたち(玄の兄、息子、甥)は遺体を警察にわたすのだが、翌日になると玄が現れる。警察に渡された遺体が生き返って帰ってきたというわけではない。その日から、毎晩玄が死に、また翌日現れ続け、家族はそれぞれに対応を考え、玄との関係を見つめ直す――。終わらない父殺しの話というか。楽器にまつわる細部も面白い。
古谷田奈月はだいたい全部読んでるはずだが、家族やジェンダーに関するある種の批評性を持った思弁的な小説なんだけど、「小説の形をとった批評」ではなくてちゃんと小説として面白い(人物造形がちゃんとしてるし文章にも力がある)ところがいい。すごく現代的な作家だと思う。最近の韓国文学にハマってる人なんかも読んでみるといいのではないかと。

無限の玄/風下の朱 (単行本)
古谷田 奈月
筑摩書房
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