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2022年の仕事


「文を紡ぎ編む人たちの Advent Calendar 2022」に参加すると手を挙げたはいいものの、結局期日までに書くことが思いつかなかった(忙しかったというのもあり)のですが、せっかく年末なのだから1年の仕事を振り返ってちょっと裏話的なことを書いてみたいと思います。
adventar.org

1月

松宏彰(カレー細胞)著 ニッポンカレーカルチャーガイド

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入社当時からカレーの本をやりたいとは思ってたのですが、思った以上の充実した本ができました。国内の様々なカレーのジャンル(日本的なカレーライスからインドカレー、タイカレーなどの各国カレー、スープカレーやスパイスカレーなどの日本独自進化&ご当地カレー等々)についてカテゴリ別にその由来などを解説、それぞれについて歴史的に重要な店やおすすめ店などのレストランガイドも入っているというものです。
作業的には超大変で(おもに掲載店への連絡が)、年末年始ももっぱらこの仕事で終わりました。ぼくもまだ行けてない掲載店が都内だけでもけっこうあるので、来年は色々行きたいですね。

2月3月に出すはずだった本が事情により遅れたりしたのでこのあとちょっと間が空いた(うち一冊は結局出なかった)

4月

バリー・マイルズ(著)須川宗純(訳) フランク・ザッパ

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敬愛する大先輩である須川さんから企画を提案いただき実現。ザッパの評伝って実はちゃんとしたやつは邦訳がなかったりしたのです。
急遽ドキュメンタリー映画と合わせての発売ということにしたので関係者各位最後の方はかなりタイトなスケジュールで頑張ってもらいましたが、おかげで永久保存版級のしっかりした本になったと思います。

5月

サム・ライミのすべて

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昨年の『ジョージ・A・ロメロの世界』が好評だったこともあり、次もああいうのをやろうかなと思っていたところへ「サム・ライミが次の『ドクター・ストレンジ』の監督をやる」というニュースが飛び込んできたので「やるしかない!」と。
実を言うとぼくはサム・ライミって『死霊のはらわた』くらいしか観てなかったのだが、幸いにして過去作品のほとんどがサブスクで視聴可能だったので、泥縄的に勉強しながらの制作となった。まあライター勢が超詳しい人たちだったので安心感を持って臨めたがよかったかなと。 

6月

スラヴォイ・ジジェク(著)岡崎龍(監修)中林敦子(訳) 分断された天

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パンデミック』『パンデミック2』に続くジジェクの時事評論本。内容的にはパンデミック以前からの話も含まれるんですが、まあジジェク節でいろいろとぶった切っております。
前職でもお世話になっていた翻訳の中林さんには一連のジジェク本を全部やってもらっていたのだが、実のところ哲学や現代思想などのバックグラウンドはまったくない方であるにも関わらず、毎回監修者からも絶賛のすばらしい仕事をしてくれている。ありがたい限り。

8月

チャック・クロスターマン(著)島田陽子(訳) 生きるために死ね

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これはゼロ年代アメリカとイギリスをまたにかけた長期海外旅行に行った際に現地の書店で原書が面だしされてたのをなんとなく購入。アムトラックの車中で一気に読み切ったというもので、十数年ごしで翻訳刊行にいたったというもの。
なかなか説明が難しい本なんだけど面白いんですこれが。著者は音楽ジャーナリストでアメリカではかなり有名な人なのですが、この本がわりと出世作なんじゃないかな。
「Spin」というオルタナ系ロック雑誌の企画で「ロックスターの死に場所をめぐる」旅に出る。行く先々でまあいろんな人に出会ったりいろいろ考えたりもするんだけど、それと並行して複数の付き合ってるんだか付き合ってないんだが微妙な女性たちが絡んできて、そういうのが基本的にずっと皮肉のきつい文体で綴られるというもの。レンタカーでアメリカを横断するロードノベルなので、そういう意味では21世紀のケルアック『オン・ザ・ロード』といえなくもない(ドラッグも終始出てくるし)。楽しい本です。

8月

佐々木敦・児玉美月(著) 反=恋愛映画論ーー『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで

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『花束みたいな恋をした』が公開中だった頃に立ち上がった企画なので一年以上かかったことになる。対談本なので3〜4回収録してちゃちゃっと作れるかなと思ったらとんでもなかった。まず言及する作品数が膨大になり、基本的になるべく全部観て(過去に観たものも見直して)から対談に臨むということなったので単純に時間がかかった。
対談そのものがまた毎回すごいボリュームで、脱線が多いというのもあるのだが、毎回5〜8時間とか喋ってたんじゃなかろうか。著者のお二人との会話はとても楽しく(特に本にならなかった部分が)、あの席を設けるだけのために続編を企画したいくらいである。

9月

新世代ホラー2022

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ジョーダン・ピールの新作『NOPE』に合わせて、近年のホラーの潮流をまとめた本を作ろうというのが当初の企画で、もともとは「ジョーダン・ピールと新世代ホラー」というタイトルを予定していたのだが、いろんな事情でジョーダン・ピールをメインで扱うのがちょっと難しくなったのでタイトルをシンプルに変更。
とりあえず『ロメロ』『サム・ライミ』でご一緒した超詳しい方々にヒアリングするところから開始。合わせて書き手も紹介してもらったりして、いろんな意味でフレッシュな本になったかと思います。今年自分の手掛けた本でどれか一冊と言われたらこれかな。

10月

名取由恵(著) 映画とドラマで学ぶイギリス史入門

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何年か前に著者をご紹介いただき、その時点でほぼ原稿はできていたのだが、当初はなかなか会社の会議を通せずに塩漬けにしてしまっていたもの。何度目かの挑戦でようやく会議を通してから刊行までは一気呵成。もともともらっていた段階で限りなく完成原稿に近いものだったのだが、その後も自主的にブラッシュアップを続けてくれていたので、いざ作業を開始してからはわりとスムーズだった。
ほかにもいろいろ著者をお待たせしちゃってる企画があるのだが、こちらもいろいろタイミングを図ったりしているので辛抱強くお待ちいただけるとありがたいです……。来年はいろいろとそういうのも動かしていきたい(唐突に来年の抱負)

11月

和田信一郎(s.h.i.)監修 現代メタルガイドブック

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これまた入社当時に一度部内で提案したところ、その時点では「は?メタル?」くらいの扱いだったのだが、時が流れるといろいろと社内の流れも変わってくるというものである(なのでお待たせしちゃってる方たちも以下略)。
これはもうひとえに監修者の頑張りに尽きる。930枚くらい紹介しているのだが、そのうち500枚くらい一人で書いている。そもそものセレクトと章立ても8割は一人で考えてくれた。しかも校了5日前くらいの時点で100枚くらい残ってたのを2日くらいで書き上げたので流石に脱帽(書かせるほうも書かせるほうだという話ではある)。
企画段階で、あくまで喩えとして出ていた「新しいメタルの教科書」という言葉をそのまま帯に使用したのだけれど、遜色のない内容になっていると思います。

という感じで1年で9冊。途中でトラブルがあったりしたのでやや少ないかな。
裏話というより単に宣伝に終止した気もするが、まあ面白い本をたくさん来年も作りたいと思いますのでよろしくお願いします。