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わたしは、ダニエル・ブレイク

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見終わって一言、「つらい……」。
英国がほこる社会派映画の名匠ケン・ローチの前作であり、カンヌ映画祭パルムドール受賞作。もともとこれを撮って引退すると言ってたのだが、社会状況を見て我慢できなくなり引退を撤回して撮影したのがこの次の最新作『家族を思うとき』である。
というのはさておき、本作だ。何がつらいかというと、「本人は全然悪くないのに社会システムの不条理によってどんどん不幸になっていく」というのにつきる。主人公のダニエルは高齢の大工。腕はよさそうだが病気でドクターストップがかかり、仕事を続けられない。そこで、生活保護を受けようとするのだが、役所からは「働けない身体だとは認められない」と審査で弾かれてしまう(クチの悪いガンコ親父みたいなところのある人なので役所のひととぶつかる場面もちらほら出てくる)。不服申立てをしつつ、しかたないので失業手当をもらうことにするのだが、そのためには就職活動をしないといけない。働けない身体なのに就職活動をするという矛盾。そしてあらゆる場面で立ちはだかる、ダニエルがそれまでの人生でまったく無縁だったコンピュータ。
ガンコ親父だが人情深くみんなに愛される老人が経済的にどんどん追い詰められていく様子は見ていて胸が痛む。隣人たちとの交流など心温まる場面が多いのが救いなのだが、そういう愛すべき人柄だからこそラストがつらい……。

ダニエル以外で印象的なのは、貧困のためにロンドンから引っ越してきたシングルマザーと娘、それにおなじアパートに住む若者たち。母娘は職安でダニエルと出会い交流を深めていくのだが、仕事にありつけず困窮が進んでいき、食事を子供にだけ与えていた母親は食料配給所で我を忘れ、その場で食料を貪るほどになっていき、ついには体を売るようになる。
一方で若者たちは中国の工場からブランドもののスニーカーの横流しを手に入れて、格安で路上で売りさばくというシノギでけっこう楽しくやっているように見える。このあたり、貧しい中にも情報格差が生まれている様子がわかりやすく描かれているように思った。こういうわかりやすくもさりげない作りが名匠なんだなと。